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袋培地栽培の経営評価 |
- 目的
袋培地生産システム(以下袋培地と称す)を導入した先進トマト栽培農家の経営状況を調査して、トマト周年年2作栽培での経営評価を行う。また、袋培地生産システムを産地に普及させるための技術指針策定を支援する。
- 調査期間
平成17年1月〜12月
- 担当農家
担当農家 豊橋市老津町
- 調査内容及び方法
担当農家及び農業改良普及課に対して表1の内容について聞き取り調査をおこなった。
表1 調査内容及び方法
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調査方法 |
内 容 |
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聞き取り |
担当農家 作型、作業別労働時間、収穫量 、販売単価
普及課 導入経費、袋培地導入面積 |
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- 調査結果
(1)作型
担当農家におけるトマトの年2作の作型は、表2のとおりである。育苗は、セル成型苗を購入するため、定植から作が始まる。抑制作型では、8月上旬に定植し、10月から1月まで収穫する。収穫終了後、直ちに半促成作型の定植を1月下旬に行い、4月から6月まで収穫する。抑制作型から半促成作型への切り替えが、担当農家の事例では2日であった。袋培地栽培の場合、土耕栽培のように土壌消毒や、施肥畝立て作業の必要がなく、短期間に作の切り替えができる。
表2 トマトの作型
年 |
作 型 |
摘心段数 |
品 種 |
定 植 |
収穫期間 |
H16 |
抑 制 |
(7〜8段) |
桃太郎ヨーク |
8月8日 |
10月10日〜1月20日 |
H17 |
半促成 |
(11〜12段) |
桃太郎ヨーク |
1月22日 |
4月5日〜6月29日 |
H17 |
抑 制 |
(8段) |
桃太郎ファイト |
8月4日 |
9月29日〜1月13日 |
(注)購入苗利用
(2)半促成作型の作業別労働時間
半促成作型の作業別労働時間は、表3のとおりである。平成17年1月20日から7月31日までの10aあたり労働時間は、680時間であった。作業名別では、収穫・調製334時間(49.1%)、次いで栽培管理238.8時間(35.1%)が労働時間の中で多くを占めた。施肥は、自動化されているので、6.6時間しかかけていなかった。更に、育苗時間は、購入苗利用のため、0時間であった。月別労働時間は、5月が栽培管理と収穫が重なり、212.4時間と最も多く、次いで6月の142.2時間であった。
表3 半促成トマトの作業別労働時間 時間/10a
作 業 名 |
1月
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2月
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3月
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4月
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5月
|
6月
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7月
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計
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比率(%) |
ほ場片づけ |
9.6 |
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|
54 |
63 |
9.4 |
定植準備
|
3.6 |
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3 |
0.5 |
定 植 |
19.2 |
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19 |
2.8 |
施 肥
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3.6
|
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|
3
|
|
|
6
|
1.0
|
栽培管理
|
32.4
|
58.2
|
42.6
|
26.4
|
79.2
|
|
|
238
|
35.1
|
防 除
|
|
7.2
|
3.6
|
1.2
|
1.8
|
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13
|
2.0
|
収穫・調製
|
|
|
|
63.4
|
128.4
|
142.2
|
|
3
|
49.1
|
計
|
68.4
|
65.4
|
46.2
|
91
|
212.4
|
142.2
|
54
|
679
|
100.0
|
(注)購入苗利用のため育苗時間なし
(3)収穫量
抑制作型と半促成作型の収穫量と販売金額は、表4のとおりである。10a当たり収量は、抑制作型9,088kg、半促成作型13,750kg、計22,838kgであった。販売金額は、JA豊橋のトマト販売単価で試算すると抑制作型3,470千円、半促成作型3,080千円、計6,550千円であった。
表4 トマトの作型別収穫量と販売金額 単位 10a
項 目
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抑制作型
|
半促成作型
|
計
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収穫箱数(箱/4kg)
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2,272
|
3,438
|
5,710
|
収量(kg)
|
9,084
|
13,752
|
22,840
|
kg単価(円)
|
382
|
224
|
287
|
販売金額(円)
|
3,470,088
|
3,080,448
|
6,550,536
|
(注) kg 単価は、 JA 豊橋 (H16 〜 17 )の実績
(4)袋培地システム導入経費
袋培地システムの導入経費は、表5のとおりである。田原市の導入農家の事例によると、
間口10m、奥行き48m、2連棟960?のハウスで、資材経費が170万円であった。更に配管、電気工事等の施工費約20万円加えると10a当たり190万円(消費税別)かかる。なお、この経費には、整地、通路マルチ敷設、袋設置、点滴チューブ設置工事は、業者外注でなくても設置できるので省略した。
表5 袋培地システム導入資材経費 1000 m2
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数量
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単価
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金額
|
電磁弁
|
1
|
23,000
|
23,000
|
サンドフィルター(自動)
|
1
|
130,000
|
130,000
|
ボールバルブ PVC
|
20
|
660
|
13,200
|
点滴チューブ
|
900
|
210
|
189,000
|
ユニラム用プラグ
|
2,250
|
20
|
45,000
|
チューブ継ぎ手
|
4
|
360
|
1,440
|
チューブ継ぎ手
|
40
|
280
|
11,200
|
塩ビパイプ
|
8
|
2,200
|
17,600
|
塩ビパイプ
|
8
|
1,600
|
12,800
|
塩ビパイプ
|
4
|
700
|
2,800
|
塩ビ継ぎ手
|
1
|
31,500
|
31,500
|
液肥混入機
|
2
|
85,000
|
170,000
|
タンク
|
2
|
17,000
|
34,000
|
ボールバルブ
|
3
|
4,310
|
12,930
|
自在型ユニオン
|
1
|
1,980
|
1,980
|
塩ビ接ぎ手
|
1
|
19,000
|
19,000
|
圧力計
|
1
|
4,090
|
4,090
|
減圧弁
|
1
|
51,100
|
51,100
|
逆止弁
|
1
|
5,600
|
5,600
|
少量多頻度潅水制御盤
|
1
|
238,000
|
238,000
|
テンションメーター
|
1
|
50,000
|
50,000
|
袋
|
567
|
730
|
413,910
|
防根シート
|
5
|
17,000
|
85,000
|
材料費
|
1
|
3,000
|
3,000
|
グランドシート
|
1
|
130,000
|
130,000
|
計
|
|
|
1,696,150
|
(注)現地導入事例より作成
配管、電気工事等の施工費約 20 万円別途必要
消費税( 5 %)は別途必要
整地、袋設置、点滴チューブ設置工事は含まず
(5)袋培地導入面積
平成15年から試験場が農家、メーカーと共同開発した袋培地栽培システムが、順調に普及しつつある。平成17年12月現在の普及状況は、表6のとおりである。県内3普及課で15戸、10,439m2が導入した。地域別では、東三河、渥美普及課で約90%を占め、作目は、大玉トマトが主体で、ミニや中玉トマト、メロン、オオバにも導入されている。 農家の導入理由は、高品質トマト生産に取り組みたいが大きな理由で、中には、青枯病やセンチュウ等土壌病害虫対策、地下水の影響を避けるため、地面と隔離した栽培がしたい等であった。
表6 普及課 別袋培地普及状況(平成17年12月)
普及課
|
戸数(戸)
|
面積(平方m)
|
導 入 作 目
|
海部
|
2 |
1,100 |
トマト、ミニトマト、 |
東三河 |
8 |
5,818 |
トマト、ミニトマト、オオバ |
渥美
|
5
|
3,521
|
トマト、中玉トマト、メロン
|
計
|
15
|
10,439
|
|
- 考察
(1)作型適応性
トマトにおける袋培地栽培の作型を検討した。事例では、抑制作型(8月定植、10〜1月収穫)と半促成作型(1月定植、4〜6月収穫)を組み合わせた年2作型であった。袋培地栽培は、1作終了後の片付けから定植までの期間が土耕栽培のように土壌消毒や施肥、畝立て作業を必要としないので短期間にでき、施設利用率が効率的に行えるメリットが認められた。事例では、2日で作の切り替えが行えた。
また、労働時間は、半促成作型では、10aあたりの680時間であった。事例では、購入苗を利用し、育苗労力の省力化が図られていた。トマトの土耕栽培の経営モデルによると、10aあたりの労働時間は、育苗75時間、耕起、整地55時間、潅水、換気25時間、計155時間としている。事例の袋培地栽培では、この150時間にあたる約22%が省力になっていると推察される。
なお、前年度調査した抑制作型の労働時間は、624時間で、同様に土耕栽培に対し約20%の省力が図れると報告されている。
以上、袋培地栽培は、土耕栽培と比較し、土壌消毒、施肥畝立てを必要とせず、施肥、潅水は自動化しているため、省力化でき、更に、作の切り替えが短期間にでき、本ぽ施設の利用効率を高めることが可能と考える。更に、袋培地栽培では、養水分を制御するため、トマトの葉がコンパクトになり、摘葉作業の手間が削減できる。
(2)経営評価
10aあたり収量実績は、抑制作型9t(経営モデル8t)、半促成作型13.7t(同8t)であった。年間では22.7t(同16t)で土耕栽培の経営モデルの42%増であり、袋培地栽培の収量性の高さが実証された。特に、半促成作型の収量が顕著であった原因として、収穫段数を11〜12段まで増やしたことと、果実が硬く、肥大性が良かったためである。
次に、販売実績のkg単価は、抑制作型382円(経営モデル400円)、半促成作型224円(同250円)であった。この単価に前述の収量を掛けた10aあたり販売額は、抑制作型347万円(同320万円)、半促成作型308万円(同200万円)であった。
年間販売実績は、袋培地栽培でトマトを2作栽培した場合655万円であり、これは、経営モデルの41%増であった。
袋培地栽培の収量実績は、年2作で23tであった。これは当地域の抑制と半促成作型を組み合わせた年間収量目標を20tを上回っており、作型や定植方法を検討し、収穫期間の拡大を図れば、更に増収は可能と思われる。
(3)普及性
平成17年12月現在の袋培地栽培導入農家数15戸、面積1haである。普及を図るにあたり、導入経費が問題となる。現地の事例から、10aあたり経費は、資材費170万円、施工費20万円、消費税9.5万円、計約200万円かかる。導入経費が比較的安価で、簡単に設置できることが袋培地栽培システムの特色であるから、これ以上導入コストがかかると普及性に影響が出てくると思われる。資材、機器供給メーカーの企業努力による導入コスト低減を期待する。
導入に当たり、制度資金(農業改良資金)や補助事業の活用も普及性を高めるため重要と考える。
次に、普及推進する対象は、(1)高品質トマト生産を目指す農家、(2)土壌病害虫の被害で苦慮しているほ場、(3)地下水位が高い等不良な土壌条件での土耕栽培を重点に推進を図る。また、トマトを栽培する場合の収量目標は、年間25t/10a以上とする。
トマト以外にオオバやメロンでも導入が始まっている。これらの作目の技術的な課題は、試験研究と普及現場が密接に連携し、技術組み立てを図っていくことが重要と考える。
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